何かひとつのことに興味を持つと、それに類するいろんなものに好奇心が向かっていく。もっと知りたい。もっと理解したい。……それが一番、幸せなスタイルだと思う。
金属の腐食、要するに「錆びる 」という現象を研究している今日の先生は、いつも金属(通常は「鉄」だけど)が腐食するメカニズムと、金属を腐食させない対策を検討しているんだろうけど、「鉄」について、ちょっと詳しい。製鉄技術はヒッタイトが発明したわけだけど、どうやらヒッタイトの歴史や生活様式もよく知っているらしい。ヒッタイト人がつくったビールがどんな味かを説明していた。製鉄を始めた彼らがどんな酒を飲んだのか……。先生の興味は、そんな風に広がっていくのだろう。
日本のタタラ製鉄や、その製鉄技術を巡って行われたであろう大和朝廷と技術者集団の抗争にも、先生の食指は動くようだ。
お釈迦さまが「錆び」について言及していれば、その情報も、先生のアンテナはしっかりとキャッチしている。『ダンマ・パダ(法句経)』から。
錆は鉄より出で、鉄を食むように、煩悩は心より出で、心を食む。
先生はこの表現を読んで、お釈迦さまの観察眼に感心したという。
金属が錆びると、その錆び瘤のできた金属部分には酸素が供給されにくくなる。通気性がいいところと悪いところができるわけだ。通気差電池のメガニズムで、金属表面の通気性のいいところから悪いところへと電気が流れる。こうして、錆びたところの周辺が錆びていく。まさに鉄から生じた錆が、今度は鉄を食べていくというわけ。お釈迦さまは通気差電池の原理なんて知らなかっただろうけれど、でも、観察からこの現象を把握していたのだ。
……まあ、そんなわけで、さ。あることに興味を持って突き詰めていくと、好奇心はいろんなところに拡散していくんだけど、こういう好奇心の使い方、アンテナの張り方っていうのは、理想的だよねって、まあ、そんなお話。
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